October 16, 2025

ソフトウェアに対する国外への支払いに関わるタックスルーリング:「事業所得」 vs. 「使用料」

概要:ソフトウェアに対する支払いに権利ベースアプローチを適用

タイの歳入局(以下、「歳入局」)は、ソフトウェアおよび関連サービスに対するタイ国外への支払いに関するプライベート税務ルーリング第Gor Kor 0702/1626号[1](2025年3月19日付)を発表しました。その支払いが「使用料(以下、「ロイヤリティ」)」であるのか、或いは「事業所得」に該当するのかを判定するにあたり、当該ルーリングでは権利ベースアプローチを適用した点が注目に値します。


当該ルーリングは、クラウドコンピューティングやカスタムソフトウェア開発に対するサービス料のタイ国外への支払いがある納税者にとって、より明確な判断基準を提供するものだと言えます。
 

当該ルーリングの背景・事実関係

アプリケーション開発を手掛けるタイ法人K社は、アプリケーションの開発に当たり、外国法人3社よりサービスの提供を受けました。当該3社それぞれの業務内容、サービス料の計算方法、及び知的財産に関わる契約上の取り決め内容は、それぞれ以下の通りでした。

サービス提供者

サービスの内容

サービス料の計算方法

知的財産権の移転、又は権利の付与

A社米国
  • ITインフラ、データストレージ、及びクラウドコンピューティングサービス
  • タイ国外のウェブサイト経由でのホステッドソフトウェアへのアクセス
使用時間に応じて請求
  • 知的財産権はA社が保持
  • K 社に対し、限定的、取り消し可能、非独占的、譲渡不可、及び再ライセンス(サブライセンス)不可の権利を付与
B社

C社
 
アイルランド、ハンガリーK社のスペックに準拠したソフトウェアの開発 日数または時間数に応じて請求  
  • シナリオ (i):知的財産権をK社に移転
  • シナリオ (ii):知的財産権はサービス提供者(ディベロッパー)が保持、K社には限定的な利用権を付与

本件の納税者であるK社は、これらの支払いがタイの税法及び適用を受ける租税条約上、「事業所得」と分類されるのか、「ロイヤリティ」と分類されるものかを明確にするよう求めました。

歳入局の判断

従来のルーリングとは異なり、所得がロイヤリティであるか否かを判断する際、歳入局は各契約について権利に基づく分析を適用し、その支払いが単にソフトウェアまたはデジタルサービスに関連するものかどうかで決めるのではなく、K社に付与された権利の具体的な内容に焦点を当てました。

1. ITインフラ、ソフトウェア、データストレージ、及びクラウドコンピューティングサービス(米国法人A社による提供

歳入局は、A社との契約はK社に対し、ホスト型のインフラとソフトウェアへのアクセスを提供するものに過ぎない点に着目しました。ライセンスは限定的、取り消し可能、非排他的、譲渡不可、およびサブライセンス不可なものであることが明示されており、ソフトウェアを複製、配布、改変、商品化する権利は付与されておらず、ノウハウの提供もありませんでした。

上記を根拠に、当該支払いは、タイ・米租税条約第12条 に規定する「ロイヤリティ」ではなく、第7条[2] に規定する「事業所得」に該当することとされました。また、タイに恒久的施設が存在しないため、歳入法典に基づき、タイの法人所得税の申告納税義務、及び源泉徴収義務は生じないこととされました。

2. カスタムソフトウェア開発(アイルランド法人B社、ハンガリー法人C社により提供)

ソフトウェア開発サービスに対する支払いについて、歳入局は次の2つのシナリオに区別をしました。

  • シナリオ (i):知的財産権がK社に移転された場合
    • 開発されたソフトウェアの所有権をK社に移転した場合、その支払いは、ロイヤリティでは無く、歳入法典第40条 (8) に規定するサービス所得として扱う。また、アイルランドおよびハンガリーとの租税条約上、当該所得はそれぞれ条約の第7条で取り扱われている事業所得に該当する。
    • B社及びC社がタイに恒久的施設を有しない事を前提に、両社はタイの法人所得税の申告納税義務を有せず、K社も源泉徴収義務は無い。
  • シナリオ (ii): 知的財産権はディベロッパーが保持する場合
    • その支払いは、ディベロッパーが知的財産権を保持するカスタムソフトウェアサービスに対するものであり、K社は、複製、配布、または改変をする権利が無い限定的な使用権のみを取得。
    • 著作権の利用権 (exploitation rights ) は付与されていないため、その支払いはロイヤリティではなく、適用される租税条約第 7 条に基づき、事業所得に分類される。
    • B社及びC社がタイに恒久的施設を有しない事を前提に、両社はタイの法人所得税の申告納税義務を有せず、K社も源泉徴収義務は無い。

国際税務基準への移行か

当該ルーリングは、タイの徴税の慣行及び実務が国際基準、すなわちOECDモデル租税条約及びそのコメンタリーに近づくための一歩となる可能性があります。歳入局は、権利の内容・範囲に基づく判定を採用することにより、ソフトウェアサービスおよびITサービスに対する国外への支払いを「ロイヤルティ」所得とする範囲を狭めたと言えます。従来、ソフトウェア関連の支払いは原則、自動的にロイヤリティとされて来ましたが、今回の判断基準は著作権利用権 (exploitation rights) が付与されているか否かでした。

税務リスクを低減するためのステップ

このルーリングは、テクノロジーを中核とするビジネスモデルにおける源泉徴収税の負担を軽減するチャンスだと言えます。納税者には以下の対応が推奨されます。

  • タイ国外へのソフトウェア利用料又はITサービス料の支払いを伴う既存の契約類を精査し、契約内容と取引の実態の間に齟齬がないことを確認すること。
  • 当該ルーリングで示された歳入局の見解が、自社の現在の税務ポジションに与える影響と潜在的な不確実性を評価すること。
  • コンプライアンスを実証し、潜在的な源泉徴収税のリスクを管理するために、契約上の取り決めとそれに伴う税務上の処理を明確に文書化し、整合性を保つこと。

なお、当該ルーリングは、特定の事例に対する歳入局の現時点での見解を反映したものであることに留意すべきです。このため、現場の税務担当官が同様の分析を自動的に適用するかどうかは不明であり、更なる評価や交渉が必要となる可能性があります。納税者は、このルーリングを受けて契約上または構造上の変更を実施する前に専門家の助言を求めることが強く推奨されます。

結論

本件タイにおける最新のルーリングは、ソフトウェア等に対するタイ国外への支払いについて、一律にロイヤリティとする従来の取り扱いから、付与された権利の内容等に基づいてその区分を判断するという、税務上の取扱いについての大きな転換があったと言えます。この動きは、クラウドコンピューティング、カスタムソフトウェア開発、及びその他クロスボーダーテクノロジー取引に携わる企業にとって特に重要だと言えます。納税者は、この新しい判断基準に適合するよう実務を調整し、税務上のポジションの最適化を図ることが求められます。


[1] 0702/1626 | กรมสรรพากร - The Revenue Department (rd.go.th)

[2] Article 7 of the Taxation Convention between Thailand and the US https://www.irs.gov/pub/irs-trty/thailand.pdf#page=12

[3] Article 12 of the Taxation Convention between Thailand and the US https://www.irs.gov/pub/irs-trty/thailand.pdf#page=17 

Authors

Parita Rojdumrongrattana

Director
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